アルプスの麓のOMカフェ
スタンダールとサッカー観戦はいかが?
とにかく、品がある。サポーターズカフェらしくない。
スタンダール大学の仏文の学生にとっての聖地、その名も「カフェ・スタンダール」。カウンターの上に飾られた19世紀仏文学の巨匠の肖像画が見守る中、著書『赤と黒』を読むという悦楽を味わったのは10年前のことだ。お洒落なメガネのオーナー、フィリップはあのころのままだ。ところが店内はOM(マルセイユ)カラーの「水青と白」が隅々にまで増殖している。
24年前にオーナーになったフィリップは、かつての常連客だったスタンダールに敬意を表し、1世紀以上続く店名を継承した。「でも彼の作品は読んだことないよ」と豪快に笑う。
「OMカラーに染まり始めたのは、93年の欧州CLがきっかけさ。あの日、店の前の道路を勝手に通行止めにして、みんなでサッカーしながらOM優勝を祝ったんだ。警察も何も言わずに傍観してくれたから、お礼にビールを振舞ったよ」
昨年11月4日のリーグ第13節、グルノーブル対OM(0-3)でも逸話を作った。ここから徒歩で10分足らずのグルノーブルのホームスタジアムまで「OMサポーターバス」を出すというフィリップの夢は、治安の問題上、当局から却下された。わざわざ30分かけてバスを隣町へ移動させ、本場マルセイユからやってきたバス集団と合流、厳戒態勢のもとスタジアムに到着するまで、結局2時間以上も費やしたとか。
カウンターの上から、あの頃と変わらないまなざしを向けるスタンダールが傍観するのは、コーヒー片手に文学談義をする学生ではなく、ビール片手にサッカー談義に燃える忠実なOMファンたちの愉快な姿だ。ごひいきのチームの成績にご満悦なのか、スタンダールの顔がちょっと上機嫌に見えた。